かわせみ(川蝉だより)Vol.8 2009年1月発行
健康な土壌が人間の健康を支える



トーマス菌とは
 「人類の健康は食にあり」これはアメリカのアープトーマス博士の名言です。アメリカの若き医師アープトーマスは、自然界と人類の健康について深い関心を抱き、「食料の健全なる栄養源は土壌にある」と確信し、各地の土壌を研究してまわりました。そして豊かな土壌には、無数の微生物が存在していることに気がついたのです。以来、半世紀に渡って、南北アメリカを初め、世界の各地でバクテリアを採取し、アメリカ合衆国政府や各大学の応援を得て、土壌バクテリアと農作物に関する研究に没頭し、数々の実験を繰り返しやがて、土壌バクテリアの利用法と純粋培養に成功しました。
 その後、トーマス博士は、フランスのパスツール研究所に出向し、人類の腸内で生存できる乳酸菌「アシドフィラック」を発見し、1911年、博士の研究成果は、パスツール研究所の研究文献に記載され、「アシドフィラック」の版権の贈呈を受けました。そして、その功績は世界中の医学界から賞賛されました。1953年には、バクテリア発酵のメカニズムに最良の環境を与え、優秀な有機肥料を製造できる装置「アープトーマス・ダイゼスター」の発明を発表。これによって、短時間で有機物質の分解が可能となりました。トーマス博士は、この機械で製造した肥料を「オルガノ」と称し、アメリカ合衆国各地の農場に提供しました。「オルガノ」は有機肥料として素晴らしい成績を上げ、各農場の称賛を浴び、やがてその評判は全米各地へと広がっていきました。アープトーマス博士の名は「人類の健康に生涯を捧げた偉大なる開発者」として、世界中の辞書に刻まれています。

日本における経過

 マッカーサー元帥の文書記録によると、1925年(大正四年)日本で数名の学者たちが、トーマスバクテリアを輸入し国内の農家で使用したところ、たくさんの優良作物を収穫することができました。その結果は高く評価され、各機関からたくさんの感謝状が送られたと記されています。しかし、昭和初期ごろから日米間の貿易は縮小し始めます。1930年(昭和5年)には、貿易がほとんど途絶え、バクテリアを入手することが困難になってしまいました。昭和20年に終戦を迎えた日本は、マッカーサー元帥の統治下に入ります。この時、マッカーサー司令官の要人が、日本政府に対しトーマスバクテリアを使って、田畑の荒廃を回復しようと働きかけたのですが、国内の再建途上の化学肥料会社を擁護していた日本政府や農林省がそれを拒否したため、導入されなかった‥‥と記されています。そのような経緯で、当時、日本農業にトーマスバクテリアが使われることはなかったのです。

その後の日本農業
 ところで、いま私たちを取り巻く農業の実態はどうなのでしょう。地球規模で天候不順、天変地異などいろいろな公害問題が続出し、人も動植物も健全に育成しがたい環境になってきています。だれもが安全で安心できる美味しい農産物を求めるのは当たり前のことですが、果たしてそれは満たされているのでしょうか。私たちが健康でいるためには、健全に育った農産物をバランスよく摂取することが重要です。この重責を担っているのが農家であり、農業者であり、関係各機関なのです。しかし近年の肥料や燃料、それに関わる資材などの高騰は農業生産に大きな負担を与えています。さらに生産物の価格保証がありませんので、農業生産、営農、活動維持への厳しさは、日々増しています。

気がついてほしい農業の原点
 「儲からない」、「天候不順に見舞われた」、「運が悪かった」、「仕方がない」というのは栽培者の逃げ言葉です。長野県近隣の今年の気候は六月から七月の干ばつ、八月のゲリラ豪雨、不安定な寒暖差など決して良い環境ではありませんでした。きゅうりやアスパラの生育不良や、立ち枯れもありました。そんな中、作物が悲鳴上げていることに早くから気がついて、自然環境農法栽培を取り入れてきた農家では、とても良い結果を導き出しているのです。
 農業の原点に戻り、学んだことで作物が、収穫という形で応えてくれたのです。このように成功した農家からは、喜びの便りがたくさん寄せられています。

  戦後から、「楽な農業」を合い言葉に、小手先栽培の傾向に走り、目先の収量や収入に一喜一憂して化学肥料をばらまいたり、いたずらに光や熱をコントロールして作物の速成してきた結果、自然のリズムを崩した土壌から良い作物を収穫することは難しくなってしまいました。農業の原点に戻り、イジメ抜かれた土壌を蘇生させ、自然に帰すことで、バランスの良い土ができ、天候不順でも動じない、根の深い、健康な作物に生育させることができるのです。

保健と土壌
 顕微鏡の発明により微生物の存在を発見してから、医薬界、醸造界、工業方面、鉱山などで微生物が広く利用されるようになりました。そうして微生物を農業に利用した第一人者が、アープ・トーマス博士です。
 日本は古くから醸造工業に於いて、世界に勝るとも劣らない技術を保有していました。しかし、原材料の良否は土壌と有機肥料に決定されると言っても過言ではありません。有機質肥料の良否を決定する判定は、バクテリアの分解発酵を除外して決定することはできません。つまり油粕、魚類の廃棄物などは有機質肥料として優秀な素質を持っていますが、バクテリアで完全に分解され発酵しなければ肥料としての価値がないからです。田んぼに、れんげ草を咲かせて根粒菌を繁殖させたり、人間の糞尿を堆肥するのは、古人のごく自然的な知恵でした。ところが、いま我が国の土壌の75%は化学肥料や農薬を多く使い過ぎたため地力が低下してしまいました。
 昭和59年に土地増強法が法案化され、施工法が決定されましたが、現在の日本の農業に於いて化学肥料や農薬の存在を無視することはできません。なぜなら、土壌に適当な有機質が存在するとバクテリアが繁殖し、そこに適量の化学肥料を施すことで、バクテリアの培養基剤となります。その相乗関係で、作物は健全に育成され、害虫や害菌に対する抵抗力がとても強くなるのです。
 トーマスバクテリアで完全に分解発酵された有機肥料と、若干の化学肥料を施して深耕施肥すれば、土壌は必然的に団粒化し、ポーラス状態を保持することができます。こうして収穫された作物は色彩が濃厚で、栄養価に富み、糖度も高く、作物本来の香りを強く感じることができます。
 人が生きていくためには、ミネラル、ビタミンそして微量要素が必要です。これらは人体の骨格、筋肉、内臓、血液、そして脳神経に至るまで大いに影響を受けるといわれています。様々な情報が行き交う現代、私たちは家族の食の安全を守るため、優良な有機質肥料で育成された野菜、果物、肉類などを選択し、清潔な海洋や河川の魚を選ぶ目を持てるよう、常日ごろ努力していかなければなりません。